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千葉県市原市国分寺台に、30代の夫婦が独立して開業する美容室を計画した。

店舗は賃貸集合住宅の1階に位置し、西側道路に面した北側角のテナントであった。開口部は西側のみに設けられており、奥に進むにつれて光が届かず、室内はとても薄暗い雰囲気だった。施主夫婦が相談に来た時には、すでにどこかの美容室専門内装屋からもらった提案図面をもっていたのだが、それはどう見ても彼らの個性やキャラクターが反映されたものではなく、賃貸テナントスペースを開店までの時間的にも予算的にも効率よく決められるようにできているテンプレート的な内容であった。一方で、夫婦の思いは明確だった。地域の人々に愛され、自分たちと同じ子育て世代とも良い関係が築ける、開かれた美容室にしたい——その想いを受けて、私たちはまず外部空間との関係性から計画を始めることにした。


ちょうど同時期、集合住宅のオーナーからも、定期メンテナンスの代わりに資産価値を高めながら街に貢献するようなデザイン提案を依頼されており、アスファルトで覆われた外部空間に木を植えて森を作るというプロジェクトと店舗の空間構成を一体的に考えることができた。鉄骨ラーメン構造で構造の耐力を負担していないにも関わらずALCパネルで閉じきっていた北面と東面に水平連続窓を開け、朝から夕方にかけて移ろう時間の流れが感じられるように計画した。外部には武田屋作庭店が植栽する市原の里山に自生するアオダモやコナラ、ヤマザクラなどの木が植えられるため、それらの木々の動きが施術を受けている顧客に気持ちの良いランドスケープを提供するだろうと考えた。また、ちょうど北側に向けた開口部であるため間接光によってヘアカラーを得意とする施主夫婦の施術とも相性が良いと考えられた。

シャンプーやヘアトリートメントを施す部屋の床はカッパーカラーの板金で仕上げることで、洗髪の間、終始天井を見上げ続けることになる顧客を外の木々によって揺れる光で楽しませられないかと考えた。また、施主夫婦が自然由来のオーガニックな薬剤を用いることを大切にしていたため、ルーバーやベンチに用いた杉材には藍染めによる自然な着色を施した。

施術空間は、待合スペースと可動式の本棚によって緩やかに仕切られている。これは通常予約というシステムによってかなり閉じた美容室という空間を、地域に開かれた場所として活用したいという施主の願いから、ワークショップやクラフトマーケットの開催を想定した構成となっている。

季候の良いシーズンには、大きな引き戸すべて引き込んで開け放ち、手前に設えたレンガのステップに腰掛けながらマーケットを楽しむ人々を迎えられるようなしつらえとした。このレンガのステップは施主夫婦の希望で地域の人達に向けた施工ワークショップとして作り、開店前から近隣に溶け込むための機会とした。

待合室にはカット台の数よりも多くの座席と、ゆったりとしたテーブルを用意しており、カ施術の前後だけではなく、予約のない日常の中でも居場所として活用されることを期待した。

かつては「そこに店がある」というだけで成立していた店舗も、住宅地が成熟しきった現代では、ただ“存在する”だけでは足りなくなっている。新たな世代が地域に根ざして店を構えようとするとき、テンプレート化された内装や、空間の内側だけに完結する設計では応えきれない状況が生まれている。
そのような時代において、既存の建物や地域社会に対して、余白や関係性をつくることができる設計——すなわち、単なる美容室ではなく、小さな風景を編み直す拠点としての店舗設計が、これからの都市や住宅地に求められる役割なのではないだろうか。

Text:髙島和広