kurosawa kawara-ten

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House for N

郊外では、典型的な4LDKに庭と駐車場の付いた住宅が建ち並んでいて、通り沿いには小さな飲食店と壊れた車の並ぶ整備場はよく見る光景だ。
施主夫婦は二人暮らしに快適な平屋と、趣味であり副業である自動車の整備ができる広い土地を探していた。千葉県市原市の中心地から車で30分ほど離れた郊外団地の端、幹線道路からは数本奥まった県道沿いで、条件良く100 坪の土地が手に入った。

旦那さんは当初、自動車整備のための「カーポート」を後付けすることや家にガレージが付属する「ガレージハウス」をイメージしていた。しかし、施主夫婦のライフスタイルを考えると、ガレージを家と同じくらい大切な存在として扱い、まるで店舗かのように設える「ガレージとハウス」の形式が良いと考え提案することにした。また、そこに住む人のアイデンティティが可視化されるような住宅を作ることで、無個性な郊外のロードサイドに新しい風景を作ることができればと期待した。

100坪の広い敷地に住戸とガレージを配置するにあたり、まずは30坪の四角いボリュームを配置した。次に整備する車のためのロータリーとなる道を通すことで、20坪の住戸と10坪のガレージにスプリットさせた。北側と西側の2本の前面道路に面してガレージ棟が建つことで、住戸はそれに守られるような配置になった。

20坪の住戸の平面は、大きなワンルームと最小限のゲストルーム、すのこ床のロフトで構成されている。
郊外に建ち並ぶ住宅で、カーテンを開けているものを見ることはほとんどないが、この住宅ではカーテンを開けていても気持ちの良い暮らしをしてほしいと考えた。そのために、まずは車や人の交通や来客の往来があるガレージ側に対してしっかりと壁を設けてプライバシーを守り、雑木林の見える南側へ積極的に窓を設けた。

南側の窓だけでは採光に不安があったので、北西側の壁にハイサイドライトを設けて天井をすのこで作った。これにより一日を通して多様な自然光が屋内に落ち、時間のうつろいを感じられるような空間となった。
屋根はLDK側から寝室へ向けて降りていく架構とし、平屋の限られた空間の中で、リビングの開放感と寝室の落ち着き感の両立を図った。

当初の要望にはなかったガレージ棟を予算の制約の中で実現するため、構造を見せる部位や仕上げ範囲の検討、素材選び等、様々な調整に挑戦した。
住戸部分では屋根架構の垂木をそのまま見せ、内壁はラワンベニヤ、床にはPタイル等、コストを抑えつつもフェイクやプリントではない、経年変化することのできる素材を仕上げにセレクトしている。

ガレージには内装制限を満たすためのグレーの石膏ボードを目透かしに貼って最低限の仕上げとした。
住戸では、木の質感や架構が好きな奥さんの好みを、ガレージでは、DIYのできる無骨な雰囲気が好きな旦那さんの好みを強く反映させることで、それぞれにとっての特別な居場所となるよう設えた。

戦後から現在に至るまで「nLDK」 を主体としてきた日本の住宅は、「ソトで活動し、イエで寝る」ことに最適化していて、そこに暮らす家族の姿が外から感じられるようなものはとても少なかったのではないかと思う。
「ガレージとハウス」ような、守られた住戸と開かれた職場(あるいは趣味の空間)の両立によって、そこに暮らす家族のアイデンティティが街に滲み出す、そんな住宅があっても良いのではないだろうか。

また、 働き方の変化により、家で過ごす時間が増えると、きっと今まで以上に家族それぞれのスタイルに合わせた居場所が重要になってくるだろう。「ガレージ」と「ハウス」は、それぞれが旦那さんと奥さんにとっての自慢できるような居場所になってくれるのではないだろうか。

この建築が、様々なことに挑戦する夫婦の背中を押す存在となり、夫婦のこれからの暮らしをより豊かにするものになればと良いと思っている。

Photo: Ryosuke Sato