2014. 8. 1 空き屋について

増加する空き屋

 

7/29に総務省の住宅・土地調査で日本全国で空き屋が約820万戸、空き屋率が約13.5%になることが発表されました。

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これは、ガーディアンの記事(Scandal of Europe’s 11m empty homes)から比較すると、ドイツ、フランス、スペイン、イギリスの4カ国の空き屋総数とほぼ同じということになります。

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また、20%を超えるのは山梨県(22%)と長野県(20%)、その隣接県もおおくは16-17%とと高い水準にあります。

さらに四国や三陽また近畿地方も16-17%が目立つようです。

唯一1桁台の県は宮城県なのですが、3.11での津波被害を考える必要があるのではないでしょうか。

これを除けば、沖縄県の10%が最も低く、続いて関東大都市圏で11%という結果です。

この統計には加えて政令指定都市の結果も出ているのですが、

大阪市が17%で最も高く、仙台市、さいたま市、横浜市、川崎市が10%と健闘していることがわかります。

10%と20%では2倍の差があり大きな開きではありますが、

どちらにせよ現在の日本では10件に1-2件は空き屋であるということができそうです。

これから人口が減っていくことが予想されている日本ですが、

25年度で100万戸近い住宅が着工されていることを考えると、

空き屋はどんどんと増えていくと考えられます。

 

なぜ空き屋が増えるのか

 

これには諸説あると思いますが、

不動産に関わるものの視点からいくつか原因となっていそうなことが思い当たります。

・相続人がその家に住まない

・持ち主もはっきりしていて使用していないにもかかわらず、なぜか売りもしないし貸しもしない

・売ろうと思っても買った時の値段との差がありすぎて売れない

・そもそも持っている不動産がある地域の人気が落ちてしまって売れてくれない

まだまだ沢山あるとは思いますが、このようなことが不動産売買の現場から見て取れます。

 

・相続人がその家に住まない

これは多くの地方で起こっていることだと思いますが、

親世代が購入した家にその子世代が住まないという状況です。

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これは大学進学や就職に際して親元を離れ、

その後結婚をして家庭を持ったとしても職場中心に住む場所を決めるために、

新しい場所に子世代は彼らのための家を新たに持つことになるからです。

つまり新しい親世代がそこで誕生し、こうして核家族が更新されていきます。

そして、兄弟が2-3人いるような家族でも、実家を誰も継がないという状況ができ、

最終的に実家が空き屋になります。

 

・持ち主もはっきりしていて使用していないにもかかわらず、なぜか売りもしないし貸しもしない

これは上の状況も大きく影響しているのですが、

ここに持ち主が病気や加齢で施設や病院に入っているような状況が加わります。

この状況の難しいところは、その家に対する愛着という問題です。

次の項にも関係してきますが、

たいして高く売れもしないことがわかっている愛しい我が家を、

自分が生きている間に自らの手で売り払えないのです。

そこには家族の歴史が刻まれていますし、

他人から見れば一銭の価値もないと評価される物件でも、

持ち主としては数千万円出して買ったのでそれだけの価値があると思いたいでしょう。

車等の売値に愕然とする事もあると思いますが、

これらの大きな買い物をした人は自分が使用している間にその価値を使っているという感覚はありません。

ローンの支払いを家賃だと思って新築の家を少しずつ使い古していったと考えられれば良いのですが、

まだそこに建っていて住むことができる家が使い捨てだとはにわかに理解することができないのでしょう。

 

・売ろうと思っても買った時の値段との差がありすぎて売れない

そうなると売るよりは持っていた方がいいということになります。

売ってしまっては数百万でも、持っていればまた地価が上がるかもしれないし、

もしかしたら息子夫婦が住みたいと思うかもしれないと考えるようです。

確かに確率の話をすればゼロではないですし、

日本の法律上自分の持ち物をどうしようが持ち主の自由なのでしかたありません。

中にはたくさんものを入れておいて物置として使っていると思いたい人もいるようです。

 

・そもそも持っている不動産がある地域の人気が落ちてしまって売れてくれない

そして、これは行政などの施策にも関わってくる問題でもあります。

分譲当初はピカピカのきれいなところでも、20-30年もすればくたびれてもきます。

さらに、無計画に切り売りされたような場所や、

逆に雰囲気を作りやすく値段も抑えられるからと駅や繁華街から離れた場所に作られた団地は、

その新品状態がきれれば急速に人気が落ちてしまいます。

そうなったときに行政がその地域を市街化調整区域とし線引きするとどうなるでしょうか。

そもそもすでに建物に価値はないところへきて、

土地の値段も市街化区域の1/3-1/4に落ちてしまいます。

さらに郊外地域で下水の整備もまだだったりすると、浄化槽が必要だったり、

テレビ電波のデジタル化のような切り替えが最後の方まで対処してもらえないといったことがでてきます。

 

空き屋の問題点

 

治安の悪化

空き屋だからといって即問題であるわけではありません。

本質的に空き屋である別荘が建ち並ぶリゾート地では空き屋であることが問題ではありません。

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ではなぜ空き屋が問題視されるのでしょうか。

これも諸説ありますが、基本的にはこういうことだと思います。

空き屋が多い地域は人気がない地域。

人気がない地域は安い地域。

安い地域に流入または留まる人達は低所得者層。

低所得者層は高犯罪率。

これはステレオタイプであり事実ではありませんが、

このようなイメージの連鎖、または傾向があるのではないかと考えられるので実態を分析してみる価値があると思います。

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実際のところ、山梨県の認知犯罪率(人口あたり)は28位、長野県は33位と空き屋率が高くても治安が悪いとは言えません。

空き屋率の一番低かった沖縄県は27位なので別荘を除いた実質空き屋率1位の山梨県と最下位の沖縄県が、

治安に関してはほぼ同列という興味深い結果すら出ています。

しかし、データがどうあれ空き屋の多い地域の雰囲気が悪いということは感覚的に納得できると思います。

これは別荘地と比較するとその理由が以下のように見えてきます。

・その人のいない家が手入れをされているのか

・その地域全体に人はいるのか

人が入っていない家でも、雑草が刈られ、庭木も整えられ、外壁も数年に一度塗装をされている。

こんな家であれば人気がないだけで雰囲気が悪くはないでしょう。

これが今にも朽ち果てそうな雑草生い茂る空き屋だとそうはいきません。

そして、地域に常に人があるいているとしたらどうでしょう。

有名建築物として数えられるような別荘が建ち並ぶ軽井沢を散歩したい人はたくさんいるでしょう。

しかし、吹けば飛ぶような空き屋が立ち並ぶ郊外団地を散歩したい人は多くはいないでしょう。

 

若者が挑戦しづらい

 

古い空き屋はお金のない若者にとっては宝物に見えるでしょう。

シェアハウス、シェアオフィス、アトリエ、SOHO、個人商店など、

色々とアイデアややりたいことを持っている人達も多いでしょう。

若くなくても、仲間内で集まれる場所が欲しいなり、外に書斎を構えてみたいなどと考える人もいると思います。

そんなときにこの13%の空き屋が、

空いているので低料金で使えるということであったなら彼らの想像は現実味を帯びてくるかもしれません。

現状ではこれらの空き屋は誰のものかもわからずにただ空いているだけです。

 

もっと広い土地で暮らすことができるはず

 

空き屋の隣が空き屋であるとは決まっていません。

多くの場合には空き屋の隣に住んでいる人がいます。

もしその空き屋が低料金で売られているとしたら、

隣人は土地を買い増して広々とした庭付きの家に住むことができます。

その広々と快適そうな暮らしぶりから、

そんな広い庭付き一戸建ての団地が人気になるかもしれません。

空き屋はこれらの全ての可能性をつぶして、ただただ地域の雰囲気を悪くしていると言えるでしょう。

これらが具体的な空き屋の問題点であり、

つまりはとてももったいないということだと思います。

 

空き屋問題の本質であるところのもったいなさを減らして、

すっきりとした気持ちのいい街並が創っていけたらと思います。

 

 

 

※記事内のパーセンテージは全ておおよそのものです。

 

http://www.riu.or.jp/document/anti_vacant_house_in_france.pdf(月間住宅着工統計2012.3 フランスの空き屋対策と保安上危険建築物対策)

http://www.theguardian.com/society/2014/feb/23/europe-11m-empty-properties-enough-house-homeless-continent-twice(Scandal of Europe’s 11m empty homes)

http://www.census.gov/housing/hvs/files/qtr214/q214press.pdf(U.S. Census Bureau News U.S. Department of Commerce • Washington D.C. 20233 For Immediate Release Tuesday, July 29, 2014 at 10:00 A.M. EDT)

都道府県別刑法犯の認知件数,検挙件数及び検挙人員(平成23年)