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ライフアンドワークコミッションオフィス

2020年、COVID-19が猛威を振るう中、日本にリモートワークというとても画期的な生活様式が半ば強制的に導入されたことで、東京都心や千葉市の中心部のような人口密集地を離れて、郊外あるいはもっと田舎で暮らすことを考える人が増えるだろうと考えられた。コロナ禍という非常事態に対して、千葉県市原市は感染対策などを行うと同時に、里山地域に対する移住希望者の受け入れ強化をするべく、「いちはらライフアンドワークコミッション」を立ち上げて官民一体となって市外からの移住の受け入れ窓口を設置することになった。

コロナ禍以前から市原市南部の加茂地区をフィールドに、地域おこし協力隊として活動していた高橋洋介さんが、協力隊の出口プロジェクトとして取り組んでいたのが「開宅舎」という空き家を開けて賃貸をしていくビジネスで、開宅舎は加茂地区にある農家の空き家を一軒一軒ノックしながら持ち主に貸し出さないかと働きかけていた。そこで、ライフアンドワークコミッションの中で個人の移住対応を開宅舎が行うことになり、養老渓谷駅の裏にある空家を使っての拠点整備を計画することになった。

築100年前後の立派な小屋組を持つ母家と、以前長男が暮らしていた在来木造の離れを持つ一般的な農家の空き家で、母家はとても建物として魅力的だったが、予算と工事、また設計施工の難易度からしても離れだけを使う最小限の計画を提案した。設計は開宅舎のコンセプトである「空き家に光を」をベースに、空家のように持ち主や地元の人からすると不要でも、外の人からすると魅力的に見えるものに光を当て直し、次の世代へと繋いでいくことを指針とした。

まず、選んだ離れのように立派な伝統木造の隣に新建材でできた長男のための家「長男ハウス」は、通常古民家の雰囲気を壊して価値を落としているが、持ち主としては古民家よりもむしろそちらに価値を置いている、価値観が外の人と食い違う象徴のようなものではないだろうか。そこで、普通の田舎の普通の暮らしがあった長男ハウスが持つポテンシャルを引き出すことからスタートした。

在来木造であるため構造計画も考えやすく、補強もしやすい点から、まずは内部空間を仕切っている雑壁を全て取り払うことにした。すると材料の規格いっぱいで建てられて天井に隠されていた高い小屋組があり、基礎がコンクリートブロックでできている。基礎は打ち直さないといけないが曳家をする予算はないため、上部軸組を保持したまま部分的に基礎を打っていくことにした。この時少し余計に土を掘ることで2層分の空間を確保して、外型をほとんど変えずに周囲へのプレッシャーを極力おさえて、ステップフロアの空間に再構成した。

2階レベルの北面に大きな開口部を設けることで、今まで見向きもされていなかった美しい谷間の集落の風景を見ながら仕事ができる事務空間とした。
基礎のために掘った土は左官都倉の技術で大津磨きの天板となり、ワークショップで作成したレンガと合わせて受付カウンターとしている。
内外装には集落の裏山で使わなくなり大木になってしまっている広葉樹から、樫、山桜、小楢、朴木を切り出して製材し使用している。

広々とした一室空間になり、若い人や移住希望者など外の人だけでなく、開宅舎と仲の良い地元の人達も頻繁に出入りする古くて新しい空間が地域の更新を促せているのではないだろうか。

左官 左官都倉
写真 千葉正人