このコインランドリーは千葉県の開発から30年ほどになろうかという郊外団地の外に建っている。近年ではインテリアの充実した居心地の良いコインランドリーや喫茶店を併設したランドリーが増えてきた。しかしながら、今回の敷地である市原の郊外は全くそのようなものとは無縁であり、そこで暮らす人々はどこへ行っても派手なシートの看板で、やたらと大きな説明パネルに内装の大部分を占められた空間で洗濯することを強いられている。郊外の日常生活を彩る魅力をもつコインランドリー を設計した。
コインランドリーのリニューアルにあたって、この店舗は実のところ乾燥機がほとんどを占めていて、新しくした空間はラウンジのような洗濯室として使ってほしいという思いから「LAUN - DRY」という名前を提案した。
「まちの洗濯室」をテーマとし、ただ大型の洗濯乾燥機が使えるというサービスを受けに行く場所ではなく、郊外に暮らす人々に洗濯室の延長として使ってもらう存在となることを目指した。
日々の暮らしより少し素敵な暮らしを味わってもらう空間とするため、ビニール壁紙や木目調プリントのようなにせ物は使わず、多くの人に使い込んでもらうことでより価値の増していくインテリアとした。
当初は壁床ともにデニム生地を提案し、G ジャンにジーンズを合わせたファッションの様な、 ラフで味わいのある空間を提案していたが、最終的には壁をデニム生地の壁紙にすることで落ち着いた。
このランドリーで使われている素材は、壁にデニム生地、家具にはラワンやタモの木材、家具の天板にはステンレスと全て本物の素材を選んだ。デニムは色が変化して味わいを増し、木材はツヤが出てくる。ステンレスは傷がなじみ柔らかい輝きを増していく。
この空間ではそういった素材と触れ合うことで、経年劣化ではなく暮らしや歴史が積み重って変化していく、日々使うことで味わいが増していく価値を感じてもらうことを狙っている。
店内で使われている家具も既製品ではなく新しくデザインし、インテリアと調和するカウンターやソファの存在がラウンジのようにくつろぐ時間を演出するよう計画した。天井には新しく煙突を突き出し、洗濯する空間に自然の光をおとすトップライトを設けた。日の光が洗濯の気持ち良さや清潔感を際立たせると同時に、外観にもまちの洗濯室の象徴として家の煙突を感じさせるチャームポイントをもたせた。
日本の社会が合理性を求めて開発を進める中で、失われた価値観や豊かさがあると考えている。我々の身の回りは気づかないうちにフェイクや使い捨ての物で溢れ、傷や汚れに過敏になってはいないだろうか。
時間の積み重ねや本物に触れる豊かさをこのコインランドリーと共に暮らすことによって感じてもらい、郊外に暮らす価値や、本物の味わい深さに触れ、自身の暮らしが今までより少しいいものに思えてくる様な、一つのきっかけになることを期待する。