kurosawa kawara-ten

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House for G

この住宅は千葉県木更津市内、ひな壇に分譲された戸建団地の際で斜面を背負った敷地に建っている。すでに敷地には沢山の草花や作物が植えられ、斜面には施主の育てている樹木が葉を茂らせていた。施主は10数年前にこの土地を手に入れ、いつか週末住宅を建てたいと思いながら毎週かかさず都内からやって来ては庭木の手入れを行い、焚き火とピクニックをして帰る生活を繰り返していた。週末住宅を建て泊まりがけでゆったりと訪れ庭仕事をして、畑でとれた野菜を食べながら焚き火をして寝る。そんな穏やかに過ごせる使い方を望んでいた。

一方的に提案をするのではなく、施主に対して建築の歴史やスタイル等、建築にまつわる様々なレクチャーをすることで、クライアントの思う"美しい建築"を一緒に探っていくというプロセスでの設計を試してみることにした。様々なパターンを比較する中で、畑や草花を痛めないような最小限のフットプリントが条件としてまとまった。また、施主のコレクションしてきた絵画や家具を置くスペースを設けることと、施主の息子達にも使ってもらえるような場所にしたいという要望も重要だということもわかった。

斜面の樹木や、平地部分の畑を残すように配置すると、建築できるエリアはかなり限られている。その中で十分な床面積を確保しようとすると、1階面積を小さく抑え、2階部分を大きく跳ね出す形式が有利だろうと考えた。コンパクトな一階には水回りを配置し、二階の跳ね出したボリュームをLDKとすることで、リビングの広さを確保しながら斜面の景色を楽しめるようにした。また、木更津市街地ごしに東京湾やアクアラインの景色を見渡せる立地だったため、屋上階にはロフトや設備スペースを兼ねた塔屋を計画し、海側への眺望も確保した。

2階の全周を大きくはねだしてた形式であるため、眺望が欲しい山側にはトラスを組んで大きな開口と剛性を確保し、その他の面には倍率の高い構造面材を張り強度を担保する方針となった。跳ね出し部分を支えるため、室内にも斜材が現れているが、キッチンの棚やハンモックコーナーとして積極的に活用されている。外装については、1階を杉羽目板外壁、2階以上はガルバリウム鋼板で仕上げることで、施主が歳を重ねてもメンテナンスの負担が少ないよう配慮した。

かつて田園都市を夢見て開発された郊外団地では、世代を経るにつれて敷地が小分けに小さくなり、庭木は切られ、小綺麗なコンクリートと砂利とカーポートに置き換わり、気づけば自然は遠いものになってしまったように思う。そんな現代の暮らしにおいてこそ、手間と時間をかけて、土の匂いや草木の手触り、風の心地よさ、火のゆらめきを感じて過ごせることは、とても豊かで贅沢な時間ではないだろうか。だとしたら、日頃通える郊外に拠点をかまえる"過ごす郊外団地"の魅力を再発見するケーススタディになったのではないだろうか。

Photo : 千葉正人