kurosawa kawara-ten

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House for Y

この住宅は千葉県の開発から40年になろうかという400戸ほどの戸建住宅があつまった郊外戸建団地の中に建てられている。施主からの要望は周囲を気にしなくてもいいように隣戸が離れていることと、100坪以上の土地で広い庭を確保できることだった。それには団地内の半分ほどが空地として残っている密度と郊外であることの土地の価格は条件として適当だった。

郊外戸建団地は廃れてきている場合が多いが、この施主のような価値観で見直した時には、都市部と比べて破格でとても広い敷地が手に入り、豊かな自然を堪能しながら都市部へは車で30分ほどででられるという利便性というとても魅力的な土地と捉え直すことができる。

施主の気に入っていた中庭形式の平屋構成を当初は考えていたのだが、隣地の崖規制で敷地全面を使うことができず、中庭プランを2つのL型に分割してそれを重ね合わせることで家全体の構成を整えた。これにより張り出した部分の下部はピロティに、飛出した1階部分の屋根は広いベランダになり外部空間を楽しむ場所を充実させることができた。

共有部分や移動のための空間を大きくとることによって家の中の居場所ができる限り多様になるように構成を考えた。個別の空間は実際のところカプセルのようなものでも事足りるはずなのでできる限り小さくして家族の共有部分を大きく設定したかったのだが、あまりに極端な構成は家主に忍耐を強要してしまう可能性があったため、一般的なnLDKの構成からも理解できる程度の割合とした。

東西に長い構成なのだが、プライバシーをしっかりと確保するために北側に全く開口部を設けていないため採光に不満があった。このためリビング上部の屋根を突き出させて、その四周をハイサイドライトとすることでいつまでも明るく気持ちのよい空間を作ることができた。このハイサイドライトは外壁の外に貼付けるように設置することでガラスの塊のような印象を作って、日が落ちて家の明かりをつけた時に、団地内でランタンの様な印象になるように設えた。

ログハウスに住みたいと希望していた施主だったが、予算と法規の都合で1階部分の内外に杉の羽目板を貼り、2階部分は黒のサイディングと塗装しあげでの切替とした。この住宅でもできる限りフェイクは使用しないように心がけた。多少メンテナンスには労力が必要なのだが、生活の中から家事や家の補修などを取り除いたとして、毎日遊びほうけることが豊かな暮らしだとは考えられないためあえて手がかかるが時間の経過とともに価値が出る素材や風合いの変化を楽しむことができる素材を選択した。

住む場所の都心回帰が起こっているが、効率と利便性を追求するだけで豊かな暮らしや文化が創られるとは考えにくい。どんどん人が暮らす環境と自然とが離れていき、季節の移ろいや天候の変化すら感じられないような暮らしをしている人が増えている。刺激の多寡でものの良し悪しが判断されて、他人とのコミュニケーションの充実や芸術文化、または個性的で多様なことなどの数値化しにくく値段のつけられないものは考えなくてもいいことになってしまっている。

自分のスペースが十分に確保されているからこそ人を招き入れることができる。暑ければ水浴びをして、寒ければ火にあたる。心地よい風を感じながら木々がゆれる様子を眺めてコーヒーを飲むような、そんな古くて新しい豊かな生活ができる郊外を満喫できるような家になるよう計画した。

Photo: Yoichi Onoda