千葉県いすみ市大原にあった明治44年(1911年)築の卸酒屋の蔵の改修プロジェクトである。酒屋は現在の管理者の母親が亡くなって以降、数年間空家になっていて、蔵も使われないまま放置された状態であった。ところどころ梁が崩れ落ちていたり、柱が白蟻に食われていたり、全体的に傾いていたり、到底そのまま使用できるような状態ではなかった。
一方で、この蔵と同じように日本の地方は衰退しきっていて、この蔵のある自治体も、現時点で準限界自治体(人口の半数以上が55歳以上)であり、このような空家の問題にも悩まされている状況であった。そのような状況の中、千葉大学のCOC+(Program for Promoting Regional Revitalization by Universities as Centers of Community)という学生を地域に根付かせることを目的としたプログラムでこの自治体で学生を活動させることになった。
この活動のための拠点として、この古い蔵を大学生が活動するためのローカルオフィスへと改修することになった。この自治体も日本の地方の例に漏れず、新しい住まいや店舗などを作る際には、古い建物は一瞥もされずに壊されて、地域の文脈とは全く関係のない新建材や量産のための工法で建て替えられてしまっている。しかし、それこそが各地域を均質化させ、無価値化して崩壊させる根源の一つだと考えられることと、地域を再生させる際にその誇りやアイデンティティを無視することはできないのは明らかだろう。
そうであれば、この蔵の改修も使えるものは引き続き使い、また、新しいプロジェクトのための必要な新しさは古いものや既存のものを最大限尊重して決定されるべきだろうと考えた。まずは地域での活動や交流に必要な開放性を作るために蔵の東西面を全てガラスの開口部とした。
それとは反対に、学生たちの作業への集中や地元の人々との適度な距離感のための緩衝材として、南北面の壁は既存のままに残すこととした。開口部を作ることで弱くなった耐力は新しく鉄骨の骨組みを挿入することで補強とし、庇の受けや出入り口のゲートとして既存建物に溶け込むように配慮した。
床面は基礎スラブをそのまま仕上げとしてある。庇の下には砕石が敷き詰めてあるのだが、これは古い瓦を砕いて再利用したもので、外装のトタンも年代はあまり古いものではないのだが、海の町の人々がよくトタンを用いて倉庫などを作っている雰囲気を残すためにそのままにしている。
Photo by Ryosuke Sato