千葉県市原市の農村部入口にあった農家の空き家を、譲り受けた施主である音楽と映像のクリエイターのスタジオへとリノベーションしました。
千葉県南部の農家は年々耕作をやめてその田畑は放棄地となり、その住宅はどんどん空き家となっています。いままで農業と深く結びついてできあがってきた場所に、デザイナーやクリエイターといった土地との結び付きの薄い職業の人々が移住してきているのですが、そもそもの住宅や蔵は農業を中心に配置され、農業を中心に構成されているため、そのままでは部外者にとって無駄も多ければ違和感もある。
どうしたら新しい世代、新しい職業、新しい人達が自然にいられるような場所になるのかを第一に考えました。計画は当初住宅と蔵を全体的にリノベーションし一体的に使える場所として設え直すように考えられていて、さらに民泊や施主が仕事で知った日本中の陶器などのクラフトを扱う店舗として使われることが想定されていました。
しかし、2019年に千葉県を直撃した大型台風の被害で長期間の停電がおき計画が停滞した上に、2020年初頭から新型コロナウイルス感染症が蔓延しだしたことで緊急事態宣言も発令されるなど、施主の仕事だけでなく、社会的にもライフスタイルを大きく考え直させられる事態となりました。これを受けてプロジェクトの目的を、民泊などの来客を主な目的とした施設から、施主の制作活動の拠点を都市から離れた場所にも作るというものに方向転換し、蔵だけを改修してスタジオとすることとしました。
これによりプロジェクトは新しいビジネスでの収益を考慮した建設予算ではなく、既存のビジネス環境をよりよくするための低予算なものとなりました。それを受けて工務店による請負工事から施主によるセルフビルドへと、設計者の役割も工務店の施工監理から施主施工のガイドとアドバイス、大工や左官職人など分離発注されたものの管理監督へと変更し、設計手法としても、ウォーターフォール型の進行方法から、その場で要望や意見を取り入れながら随時設計を変更していくというアジャイル的なものへと変更しました。
施主はすでに都市部にスタジオを構えていたため二拠点目であったこと、都市計画区域外で申請などが少なかったことなど、特殊な条件があったとはいえ、住宅ストックが有り余っていることや、職人不足と建材の高騰によりセルフビルドや古材の再利用などが必要になってきている現在の日本においては、建築家の新しい役割として可能性が発見できたのではないかと思います。
設計を一度終えた段階から施主と設計者で多くの工事を自主工事するDITのスタイルをとったのですが、施主の提案と人脈によって計画は変わり続け、タイルを常滑の水野製陶園と日本モザイク株式会社が参加するNew traditionalプロジェクトから提供してもらい、御徒町にあるWoodworkによるキッチンカウンターとスズモクによる腰板、さらには地元の大工や左官職人と一緒に大学生への施工ワークショップを開催しながら制作しました。
住む場所から制作、人が行き交う場所へと性質を変えることが必要でしたが、建築的な構築物だけの更新ではなく、その場所を作る過程やそのコミュニケーションをし続けることで、そこに関わる人達や直接その場所を使わない人に対しても変化を促していくような新し建築と建築家の役割を考えました。
家具:Woodwork
家具:鈴木一史
タイル:New traditional
タイル:日本モザイクタイル株式会社
タイル:水野製陶園ラボ
タイル:高橋孝治デザイン事務所
内装:スズモク
写真:千葉正人