家族構成が変わったのであれば家も変化してもいいのではないか。もともと狭い日本の家であれば、使っていない寝室を残しているがために小さなリビングをリビングダイニングなどとして何十年も使い続けるのは素晴らしいことではないのではないだろうか。就職、結婚、出産、進学、これは世代を超えて繰り返され、その都度家族構成は変わる。
そして、それぞれの期間はそれなりに長く、もしどこかのタイミングで移り住んだ家そのままで暮らし続けるのであれば、意識にはないのかもしれないが、暮らしを家に合わせていることになる。50代で子供が巣立ってからの数十年を家に合わせて暮らしていくのではなく、家を状況に合わせて暮らしていくというほうが合理的なのではないか。
マンションの一室を譲り受けた若い施主は一人暮らしであったため、3LDKという間取りは不要であった。広くて気持ちのいいリビングルームとコンパクトで機能的な水廻り、そして必要十分な寝室という1LDKへの更新を計画した。しかし、躯体の構造上部屋を南北に分ける壁が撤去できなかったため、リビングルームと水廻りとのつながりを作る方法が必要であった。
そこで、配管のために持ち上げられていたキッチンの床を体力壁の開口部分を越えてリビングルームまで引き出してくることによって、キッチンに所属している床だが空間としてはリビングルームにあるという場所を作ることができた。床の素材を変えることと、張り出した部分をリビングルームの床から浮かせることで別の空間に所属していることを強調し、空間に多少の複雑さが作られることを期待した。
また、限られた空間を最大限に利用するために、寝室の壁を傾斜させ、キッチン側では立って過ごすために上部の空間を広く、寝室では座るまたは寝ているために下部の空間を広く取り合うこととして合理的な空間の利用ができるよう考えた。
Photo : Sayaka Mochizuki