集合住宅とは高密度高効率な土地利用によって、多くの人を良い条件の土地に住まわせることができる。しかし、一度少し遠くからその建物を見てみると、たかだか20cm前後のコンクリートの壁を界に寝室を隣り合わせにしている家族の様子が見えてくる。玄関を中心として隣戸との戸境壁へ取り付くように寝室などが配置されている。それは無意識に他人が個人的な空間へ接近している状態で、ひどい時には寝ている間一晩中20cm向こうに人がいるという状況になる。
この無意識のストレスを少しでも解消するために、部屋の中にもう一つ記号としての部屋を作ることを試みた。1LDKの中に、壁と建具で仕切られた1R空間を作る。限られたスペースでは物理的に空間をとることが難しいのであくまで記号的で象徴的なものだが、これは無意識の隣戸へのストレスに対する無意識の境界を作るという意味である。
寝室、風呂、洗面、キッチン、ダイニングという1Rマンションに必要な要素を20cmほど床を高くした空間として配置し、白い塗装壁と建具で仕切りを作る。その周りにリビングルームと作業場所、さらにクローゼットと玄関がとりつき、全体としては1LDKの間取りとなるようにした。1R部分とその周辺は床材と壁材、また建具の木目などの素材にも違いを持たせることで別の空間であることを強調する。
こうして同じ部屋に1Rと1LDKという2重の状況ができあがるが、実際の生活においてはただの1LDKとして機能するだろう。しかし、プライベートな空間があるということが家族のストレスを多少でも解消し、確保されたプライベートを基地として外とのつながりを積極的に取れるようになるのではないかと期待した。
Photo : Sayaka Mochizuki