ハワードが田園都市を構想してから120年が経った今、イギリスから遠く離れた日本の郊外には、作られた当初の目的を全うし大量の空家を抱えた戸建団地群が無数に点在している。世界第二位の経済大国にまで成長する中で、日本全国から移り住んできた人々の夢のマイホーム群はその子供たちには受け継がれることもなく、住民とともに老いて寿命を迎えようとしている。かつてないスピードで成長をするために必要だった人的資源の受け入れ先は、その成長が止まった時にどんなことが起こるのかは全く予想すらされていなかったのだろう。まさか自分たちが建てた戸建て住宅が不要になりゴミになる日が来るとは、腕を振るった大工達は一度でも想像したことがあっただろうか。何もない更地に全く面識のない人々が移り住み、即席のコミュニティ作りのために盆踊りやお祭りで酒を酌み交わしてカラオケを歌っていたあの30代の若者達には、40年後の社会がこんな状況になるなんて決して予見することはできなかっただろう。
 織物の街、炭鉱の街、自動車の街、観光の街、産業とともに人々も移り去っていく。しかし、そこには今まで人が暮らしてきたことに裏付けられた一定の居住性の高さと、建物群が道路や水道などとともに残されている。一見ゴミのように見えるものでも、誰かの目にはそれは資源に見え、一度それが資源だと気が付くと、また人が移り住み新しい産業や文化を起こしていく。多くの歴史ある街が辿ってきたはじめの一歩、日本の郊外戸建団地群はまさにその第一幕を閉じて歴史を始めようとしているところなのかもしれない。
 そんな郊外戸建団地のこれまでと現状を振り返り第二幕の可能性を探るために、自らが所属する千葉県市原市にある郊外戸建団地で行うケーススタディとその中で考えたことをまとめ「明日の郊外団地」の姿を考えてみたいと思う。

kurosawa kawara-ten

TABLE OF CONTENTS

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はじめに

 今の日本の住宅政策を考える立場にいる人達は、ここで一度立ち止まって周囲を見渡してみた方がいいかもしれない。いったいこれまでにどれほどの石灰、石英、鉄鋼、アルミ、セメント、そして木材が使われてきたのだろうか。一軒の住宅を建てるだけでもその建材の使用量にはいつも驚くばかりなのに、この国で毎年作られ続けている新築住宅の着工件数を想像すると、今までにいったいこの地球上にどれほど大きな穴を堀り、どれほど大きな木々をなぎ倒してきたのだろうかと、そのあまりの果てしなさに、ただただ取り返しのつかない悪行の一旦に手を染めてしまっているのではないかという罪悪感に苛まれる。そして、有名なイースター島の話を思い出しては、この国の行く末を案じずにはいられなくなる。

 現在、日本における新築戸建住宅の着工件数は年間90万件を超えている(H27年度http://www.mlit.go.jp/common/001133591.xlsx)、これはこの20年間で2割近く減少しているのだが、新設のマンションの着工件数が同時に年間120万戸近くあることを考えると(http://www.mlit.go.jp/common/001133639.xlsx)、H27年度では新築住宅が200万戸以上供給されたことになる。もちろん、年間120万戸ほどの住宅を取り壊してもいるため(H25年度http://www.mlit.go.jp/common/001133667.xls)、純粋な増減でいけば80万戸ほどの増加となるのだが、つまりは年間に80万戸のペースで毎年日本には大なり小なり住宅が増えているという事実がある。震災による需要や新規開発、再開発による需要、または政策や都市戦略として新しく街を作ったためなど必然性や将来性のあるケースもあるはずだが、世帯数が5年間で145万世帯しか増えていないことを考えると(http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2015/kekka/zuhyou/jinsoku0102.xls)、少なくともこの5年間に関していえば、年間50万戸近い新築住宅が使われる見込みも無く供給され続けている。もしくは、行くあてのない50万戸近い空家が、良識ある日本の人々の小さな罪悪感を押し殺して作り出されている。

 この数字はあくまで新築住宅に関するものであり、供給またはそこにある住宅とすればいわゆる空家もこの国には300万戸以上(H25年度http://www.mlit.go.jp/common/001036700.xls)が存在している。つまり、この国には現在使われる見込みが無くただあるだけの住宅すなわち住宅ストックが400万戸以上あるというのが現実であり、また、その現実の上にさらに50万戸増えようとしてる状況だという事実がある。

 では、無目的に住宅が増え続けるという状況を放置してもこの国の人々に害はないのだろうか。この国の全国津々浦々にいる小さな社長さん達を潤わせ続けることが、果たして人々の明日の暮らしにとって必要不可欠なことなのだろうか。全国民がカタログの中から選んだのっぺりとしたプラスチックのハリボテに暮らせなくてはいけない理由は、いったいどこにあるのだろうか。全国民が同じ便器で用を足す、同じ風呂桶につかり、同じ床の上に暮らすことが、果たして徹底されなければいけない権利なのだろうか。

 これはやはり一度立ち止まって、住宅はこの先どこへ向かうのかを考えてみる必要がある。

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郊外戸建団地の現在

郊外戸建団地/外戸建団地での生活/東京圏周辺の状況